2012年10月17日水曜日

話さなくてもいんだよ

震災後、母は人に会うのを
ひどく嫌がりました。

家族にしか会わない生活で
彼女は良いのだろうか
大丈夫なのだろうかと、
ずいぶん心配しました。

『人に会うのが嫌なわけじゃないの。
 でもたいてい、話のどこかに、
 津波の話や亡くなった人の話が、
 出るでしょう。私はそれが嫌なの」
と、彼女は言いました。

話して癒される人もいる一方で、
我が家の夫や母のように、
「話すと、嫌なことを
 再び思い出すことになるから、
 話したくない」という人もいます。

「聞かれたら答えないわけには
 いかないわよね」
正直さをモットーに、
お客様に接してきた、
母らしい言葉です。

「答えたくないことには、
 答えなくてもいいんだよ」
と私が言うと、母は「そう?」
どう断ればいいのか
考えているようでした。

「今はまだ、その話はできる状況じゃ
 ないの。ごめんなさいね」
「話すと辛くなっちゃうのよ」

ただ正直に、自分の気持ちを
伝えることは、悪いことじゃない。
自分の気持ちを癒すことを優先し、
自分を守ることも、悪いことじゃない。

話さなくても良いんだと思ったら、
ちょっと気持ちが軽くなったのかな。
最近は、外出が増えている母です。

海のそばで暮らしてきた人だから、
「海、見に行く?」と言うと
「良いわね」と言う母。

でも夫(義理の息子)が
サーフィンに行くというと、
複雑な気持ちになるらしい。
なんとなくごちゃごちゃな
その気持ちもわかる気がする。
 




4 件のコメント:

  1. 震災はあまりにも辛いことでお母様の心が癒えるには長い時間がかかるでしょうね。。
    私は相手が辛いだろうなと思う話はあえて避けてしまいますね。
    海は好きだけど、人がそこに居るのは辛い。
    なんとなくわかります。

    私の場合、早くに亡くなった両親の病気や流産のことを皆さん気を使ってくださり、聞いてこられません。
    私は話したいほうなんです。
    なので、こちらから言ってしまうこともあります。
    これも人それぞれですね。

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    1. keiさんへ

      先日我が家に、母と共に
      女川で被災した友人が
      遊びに来てくれました。
      同じ状況にいたから
      気持ちがわかると、
      あえて、いくつかの話は
      避けていましたね。

      だから母は「楽しかった。
      来てもらって良かった」と。

      それで良いんだなと思います。
      いつもありがとうございます。

      若松 美穂

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  2. お母さんのお気持ちがわかります。
    東北で地震が起きた時
    阪神で被災してから10年以上過ぎたというのに
    被災経験をした人たちは
    (わたしもそうなんですが)
    そのことを話題にすることができませんでした。
    誰も話さない、語れないんです。
    何がおきているのか
    これからどういうことと向き合っていくのか、
    ガッツ~ンとわかりすぎているからです。
    被災したことを語ったり
    聞いてもらうというのは
    何回も被災しなおすことなんだと思います。
    ふれないことでしか
    治癒していかないことってあるんだなあって
    実体験しているところです。
    (全ての被災者がそうとは限らないのですが)
    だから美穂さんのアドバイス、
    すごく的をえていると思います。
    普通に暮らすこと、
    これが何よりの回復薬だと思います。


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    1. ゆるりんりんさんへ

      そうですね。普通に暮らす。
      大事に大事にしていこうと思います。
      アドバイスをいただけて良かったです。
      ありがとうございます。

      若松 美穂

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